2005年03月03日
なぁんにも無い町

ラオスのチャンパサックは本当に何もないところだ。歩いているだけでも眠気を誘うこの町は、ゆったりしながらも力強いメコン川に静かに寄り添うように、ある。そのメインストリート(と言ってもそれしか道らしい道はないのだが)は川と並行に通り、その両側には伝統的な木造高床式の家々、植民地時代に建てられたフランス風のヴィラが数戸、それにレストラン、ゲストハウス、町の人々が通うシンプルな商店が数軒あるだけだ。この町の中心から8キロ南に世界遺産のワット・プー・チャンパサックがある。この寺院はアンコールの時代に建設されたもので、そこからは遙か南方のアンコール・ワットへ続く道が延びている。しかし、あのカンボジアの大寺院のスケールとは比較する術もなく、ここを訪れる人々は数少なく、やって来たとしても長く滞在することはない。

到着したとき、近所の子供たちが私たちを見てクスクス笑っていたが、ジロジロ見ることも畳みかけるような挨拶の嵐も無かった。ただ目が合って遊びのような相互認識を交わしただけで、我々はすでに友達になっていた。彼らは、メコン川を見下ろす庭の真ん中に立っている大きなマンゴーの木に集まる虫を追いかけていたところだった。彼らが振り回す竹の棒で届くか届かないかという高さまで枝が下りてきていて、その枝をようやく叩くと周辺に留まっていた小さな薄緑色の虫が飛び回る。子供たちは笑い声をあげその小さなぶんぶんを追いかけて走り回る。最初はそのうちの何人かが持っていたペットボトルに捕まえた虫を集めているのだろうと思っていたのだが、私たちの目の前で彼らはその虫の堅い羽をむしり取り、ポイッと口の中に放り込んで、まるでマーブルチョコレートを食べるようにガリガリと美味しそうに食べた。
この国の実にゆったりゆっくりペースの生活や食事にはあまり期待できないことなどについては、ラオス入国前に出会った多くのトラベラー達から聞き及んではいた。入国後最初に滞在したここチャンパサックでその情報は確かなものだったことを確認した後は、そのペースに合わせて子供達と遊び、読書に専念することにした。食事は、ある若い日本人バックパッカーが「飯が不味い!」と表現したとおりである。世界に著名なエスニック料理というものはおそらくすでに出揃っているのだろうが、「行きつけのラオス料理の店」などというものは聞いたこともないし、私自身見たことがない。

ゲストハウスの前を通る「メインストリート」では自転車や原チャリが時々走るだけで自動車が行き交うのはまれである。その他に耳に入ってくる音と言えば赤ん坊の泣き声、子供達の笑い声、ニワトリやアヒル、セミの鳴き声、川を走るボートのエンジン、そして雨と風、といった具合だ。何しろラオスに入ってからと言うもの、今までの旅で多少なりとも常に感じる緊迫感というものが全くない。あったとすれば国境を越えた直後についた町、パクセで乗っていたロット・ドイサーン(トラックバス)に若い男が乗り込んできて、私たちの荷物をさっさと自分のトゥクトゥクに載せ、「あんたら、どこいくねん?」とせっかちに訊いてきたときくらいなものだ。ここにいると、あのことさえももう何日も前のことのように思えてしまう。

借りた原チャリを駆ってワット・プーへ行くことは簡単なことだった。道一本、しかも注意を払うべきものが周囲に何もない。私たちがいるメコン川の西側には収穫を終えた米畑が金色に染まって広がっている。ゆったりとした丘陵が徐々に高さを増しながら、靄がかった暑い大気の中に横たわる山々のブルーと灰色のシルエットの中に溶け込んでいる。廃墟となったこの寺院はそんななだらかな丘の中腹に残されていた。一般には仏教寺院とはされているが、ヒンズー教ゆかりの神々やシンボルもそこここに見られる。砂岩に彫り込まれた形象は消えてゆこうとしている。しかし神々の表情は明らかにアンコール様式で、穏やかな微笑を含む分厚い唇と伏せた眼差しが印象的だ。仏の表情はタイのそれに酷似している。アンコール・ワットのような目を見張るようなオブジェや景観はここには無いが、それと同じ様式の建築や美術への静かなイントロであったかも知れない。

ワット・プーを訪れ、町へゆっくりと帰ってくるのに半日もかからなかった。時間つぶしにもならない。「さて、これからどうする?子供達と遊ぶか、昼寝をするか、本を読むか。」思いつくのはそれだけだった。そんな場所で2、3日を過ごすと、「私はやはり現代社会の産物なのだ」と考えざるを得なくなる。「何もせず、休養し、何も考えずにリラックスする」ための手段を持たないのだ。「仕事のやりすぎは頭のために良くない」と人々が考え、忙しい人たちを心から可哀想に思うというのが国民性だとされるこの国で、私たちはゆったりと時間を過ごす能力を試されているような気持ちである。将来ラオスを訪れようと考えている読者へアドバイス。読みたい本をどっさりと持参すること。(日本語の本を扱っているブックストアは無いと考えていい。)ヨガ用のマットもきっと役に立つだろう。
Posted by taro at 2005年03月03日 22:08ぶんぶんってカメムシに似ていますね。
苦そう...太郎さん達は食べてみましたか?
今はラオスのなぁんにも無い生活に憧れます。
生き物の声や風や水の音に耳を傾けながら
ただただボーッと過ごしたいです。
はじめまして。
時間の使い方、難しいですね〜。
何もなかったらどうなっちゃうのか。TRYしてみたい様な怖い様な。
いい旅していてうらやましいです。
ひよこさん>
試してみてください。少なくとも怖くはありません。
一度経験するとちょっと考えることがあるかも。
J-WAVEでお互い頑張りましょう(笑)。
理絵さん>
赤アリとハチは食べたよ。でもふりかけのような
味付けがしてあった。確かにちょっと苦かったです。
